鍛冶屋闘争記


○試作品のくり返し

帰宅後、床の間に頂いた刻書作品「好日」を掛け、翌日から試作品の製作に入った。
印刀とノミの両方であるから遅々として進まなかったが、長さ・肉厚・角度などを一つづつ改良しては、石寿先生へ送り、試刻してもらい、返書を読んでは又、一つづつ改良していくという作業をくり返すうちに、改良のアイデアが無くなってしまい、前回と同じ試作品を送ったことがあった。
結果はやはり前回と同じ批評であった。
バレバレだったのである。

あれは、半年ほど経過した頃、返送されてきた手紙と共に、試刻された「印」が同封されていた。(写真参照)
これで、萎えていた気分もスッキリし、再び浮かんだアイデアで改良した印刀を送ると、2週間後に試刻品の印と共に嬉しい便りが届いた。
やっとOKが出たのである。

送られてきた手紙
頂いた印


篆刻の印刀は大別すると、中鋒(両刃)と偏鋒(片刃)がある。
篆刻の入門書では、ほとんど中鋒を中心に説明しており、偏鋒での説明が無いので分からない方が大多数と思うが、初めての方でも扱い易く、簡単に刻せるので是非一度試されると良いでしょう。
偏鋒の解説本は、木耳社の『篆刻講座』が写真も詳細に付いているので、最初の方でも分かりやすいと思います。
この時OKが出たのは、偏鋒の方で、こうなると次々にOKが出て、数年後には現在の小所の印刀と刻書ノミの原形が出来たのである。



○そして再びやり直し

半年ほどで結果が出て天狗になっていたのであろう。
年が明けて昭和63年の1月下旬に、お叱りの手紙と「木型」が届けられた。
手紙には、印刀に微妙なズレが生じて、使いづらく、「使いたい」という気が起きない。とあった。
そんな事がある訳が無いと自信満々で、見本に残しておいた刀と比べてみると、確かに半年足らずで変化していた。
もう一度初心にもどり、常に見本を側に置いて、見比べながら印刀を鍛えるようになると、偏鋒・中鋒を問わず全国から「よく切れる」「非常に使い易い」「早速、友人に紹介した」等等のありがたい便りが届くようになった。
こうして、平成の時代に入り「お叱り」も激減し、軌道にのってきたのである。

手紙と木型